助成先訪問 No.014
外国にルーツのある子どもたちをマンツーマンの「得意支援」で支える
認定NPO法人浜松NPOネットワークセンター
訪問日 2025年9月24日
会報取材/特別企画
〜奨学生による
助成活動団体 訪問〜
浜松市郊外の住宅地・佐鳴台に認定NPO法人浜松NPOネットワークセンター(愛称:N-Pocket)の拠点はあります。N-Pocketは、浜松地域のNPO・市民活動団体・ボランティアをつなぎ、協働のまちづくりを推進する中間支援組織です。情報発信、相談、交流の場の提供を通じて、市民が社会貢献活動へ参加するきっかけを生み出す様々な活動のうち、「困難を抱える子どもへの個別・訪問型 得意支援」を樫の芽会は支援しています。

レポーター
奨学生 鈴木 春奈さん
全国有数の外国人集住都市 浜松市
浜松市には日本最大のブラジル移民コミュニティーがあり、3万人を超える外国人住民が住んでいます。市内の小中学校に通う外国籍の児童生徒はブラジルのほか、ベトナム、フィリピン、中国、インドネシア、ペルー、韓国など24カ国にルーツがある1945人(2025年5月1日現在)。その3分の2が日本生まれ、日本育ちですが、両親は職場でも家庭でも日本語を使わないため、日本語が話せない、書けないというケースが少なくありません。こうした子どもたちの多くが、友達とは日本語の会話がスムーズに出来るのに、「教科書に書いてある内容が理解できない」「授業がわからない」という、外からは見えにくい困難を抱えています。
行政の支援の網からもれる子どもたちへ
また、外国籍の子に限らず不登校の子どもの率が全国平均より高く、市教委が用意する校内外の居場所のほかに、経済的な理由や家庭環境等により学習支援を必要としている子どものために、集団型でサポートする場所が27か所あります。しかし、支援の場所まで来られない子に対応する場所がありませんでした。そこでN-Pocketが2016年に始めたのが個別型・訪問型学習支援です。支援者や講師が家庭訪問し、会話を通して徐々に子どもの心をほぐしていきます。自宅から出られるようになった子どもは、コミュニティーセンターで1時間、講師からマンツーマンで勉強を教わります。
音読できるけど……マンツーマンで言語を育てる
見学した日は、コミュニティーセンターの小会議室で、午後4時〜5時にペルー人の中学1年生男子J君、5時〜6時にフィリピン人の中学3年生男子P君が、日本語教師の資格を持つ彦坂庸子さんから、一対一で勉強を教わっていました。
並んで座り、英語と理科の問題集や宿題を解いていきます。
彦坂さんは「時間通りに忘れずに来ることができてすごいね!」とまず、来たことを盛大に褒めました。今日学校であったことなどをおしゃべりしながら、「助動詞が抜けているよ、何かな?」と声をかけ、間違えた箇所を自分で直すように促します。
J君は「ワンチャンあり!」など日本語のスラングも達者ですが、理科の教科書を音読できるのに「何が書いてあるかさっぱりわからなかった」そうです。彦坂さんは「中和」「酸性」「濾過」などの意味をやさしい言葉に置き換えながら説明。最近は、理科だけでなく、国語の成績も上がってきたそうです。
P君はバスケットボールに力を入れており、フィリピンの高校に進学しようと英会話を重点的に教わっていました。しかし、日本の強豪校に進路変更を決め、文法や読解にシフト。出願の仕方なども今後支援が必要です。「親の里帰りでフィリピンに行ったんだけど、重いから機内に教科書が持ち込めず、帰国後の学力調査がつらかった」と話していました。

子どもたちを暖かく導く彦坂庸子先生
「得意支援」で出席率・継続率UP!
2024年からは「得意支援」も始めました。学習支援というと尻込みする子どもたちに、導入としてプログラミングやパーカッション、書道など自分がやってみたいことを挙げてもらい、その分野を得意とする講師に教えてもらいます。外国籍の子が苦手とする浜松市の冬休みの宿題「書道」も得意支援で補ったそうです。担当の望月真理子さんは「何か一つ自信が付くと、学習意欲にもつながります」と話しました。
インタビュー
外国ルーツの子どもの困難がどこから来るのか、
一人ひとり見極めるように努めています
副代表理事 大野木 里美(おおのぎ・さとみ)さん
2016年に当時注目されていた「子どもの貧困」をテーマに中間支援事業として相談支援・子ども食堂・フードバンクなどを実施している地域の支援団体をつなげて活動をしました。その一環でスタートした学習支援は、個別型・訪問型のスタイルで10年間続けています。
家庭訪問をすると、ドアを開けてくれない、布団から出られないという子もいます。親はダブルワーク、トリプルワークで子どもに手が回っていない。短期の出稼ぎで不在ということもありました。支援を始めるにあたって面談をしますが、子どもはだんまり。お母さんとしか話せなかったことも。時間をかけて徐々に子どもと打ち解け、決して焦らないことを心がけています。その子にはその子のタイミングがありますから。
抱えている困難も一人ひとり違います。日本語の能力の問題なのか、知的・発達障害があるのか、識字障害があるのか。原因は一つではないし、学校も分析できていません。浜松では外国人児童生徒就学支援員やサポーターが、複数の小中学校をかけ持ちで配置されています。多い学校では数十人規模で外国ルーツの子どもを抱え、全員のニーズに合わせられないんですね。
日本語はたくさんしゃべるけど、ひらがなが書けないまま中学に上がったブラジルルーツの子がいました。友達がいるから学校には行く。でも学習が積み上がらない。YouTubeで英語を覚え、日本語もタガログ語も話せない、というフィリピンの子もいました。
発達に課題がありそうな子どもは臨床心理士とも連携して、学習を進めています。
学割、奨学金、就学支援制度など、日本人はいつ身に付けたのか分からない「常識」が、外国ルーツの子どもの壁になっています。生活支援の面でもきめ細やかな関わりが必要です。
小4のペルーの男の子は、ランドセルの中身の整理から始めました。プリントを全部出してもらい、お母さんに渡す優先順位をつける。学校で買わなければいけない教材があれば、お知らせする。「そういうサポートがありがたい」と言われました。
小中学校のスクールソーシャルワーカーとつながり、気になる子を紹介してもらっています。苦労するのは「日本語ができなくても親が働けているんだから、子どもも学習しなくてもいい」というケース。子どもの気持ちが勉強に向かないまま、先生が待ちぼうけを食ったり、支援終了になってしまったり。一方で、将来の見通しを立て、学習意欲がわいてくるなど子どもに変化が見られると、うれしい。発達途上の子どもにどう伴走できるか、日々模索しています。
通信制高校の子どもに聞き取り
「多様すぎる実態が見えてきた」
理事(子ども事業担当) 望月 真理子(もちづき・まりこ)さん
2021年、コロナ禍での経済的困窮の子育て家庭を対象にした食料品無料配付支援からN-Pocketに関わり始めました。私自身、夫の転勤でアメリカに行き、そこで子どもを2人出産して、日本に戻ってきました。異国で子育てする人の大変さは知っていたので、何かできないかなと思っていたんですね。
私自身は教員の資格を持っているわけでもなく、ただただ目の前の子どもに向き合ってきました。この子にとってどんなサポートがあると幸せかをその都度考えていく。言葉や生活習慣、価値観の違いがわからないからこそ、人と人として対峙するしかないと感じています。自分の子どもだけでなく、地域の子どもと関われるのが喜びです。
「学習」というとウッとなる子のために、「得意支援」を始めました。小学校の時から不登校の中3の子はプログラミングに興味を示しました。そこからオンラインで講師がプログラミングを教え、だんだんと会話が楽しめるようになり、今年4月、通信制高校に進学しました。学校で友だちとバンドも組んでいて、スクーリングやレポート提出を頑張っているそうです。「得意」を軸にした評価のいらない関係性の中で、子どもたちは自信を取り戻していくんですね。今は「合気道」「パーカッション」の講師がいます。ほかにも子どもから希望があれば「得意」を伸ばすところから、支援につなげたいと考えています。
自分の子どもが通信制高校に転校したことをきっかけに、浜松市周辺の通信制高校を調べました。浜松駅周辺には8校もありましたが、本校は県外で浜松にはキャンパスだけという学校もあり、スクーリングの場所や方法、通学頻度もまちまち。「多様すぎる」実態がわかりました。市教委も「市内通学の高校生」として把握していない。まず「この子たちの声を聴こう」とN-Pocketで2023〜2024年、定時制・通信制高校に通う学生にWEBアンケートをしました。448人から回答があり、約2割の子が外国ルーツでした。その後12人の生徒から「居場所」についてのヒアリングも行い、市議も交えた円卓会議でも話し合いました。
今の子どもたちは選択肢も情報も多すぎて、自分で決めるのが大変な状況にあります。中学を卒業した子の居場所をどう作っていくのか、私たちが経験してきたのとは違う生きづらさにどう手を差し伸べられるか、模索しています。
樫の芽会奨学生鈴木 春奈さん
京都産業大学外国語学部
アジア言語学科1年生
〜取材を終えて〜
私は現在、大学で多くの国の留学生と交流しています。出身が今回取材した浜松NPOネットワークセンターさんと同じ浜松で、日本で最もブラジル人が多い街です。そのため外国人への理解はあるつもりでしたが、取材を通して日本に暮らす外国ルーツの家庭にはそれぞれ異なる事情があると知りました。だからこそ、一人一人に寄り添う「得意支援」が生徒さんにとって大きな支えになると感じました。今回の取材の経験を今後の大学生活に活かしていきたいです。
認定NPO法人 浜松NPOネットワークセンター(愛称:N-Pocket)
- 創 設
- 1997年3月
- 代表理事
- 島田江津子
- 開催場所
・
日時 - (以下は、助成対象の「訪問型得意支援」について)
各家庭、または市内の協働センター、法人事務所
1人週1時間をマンツーマンで支援(時間と場所は本人の希望に合わせる)
- 対 象
- 小・中・高校のスクールソーシャルワーカーや養護教諭から紹介を受けた学習に困難を抱えている子ども(現在籍数 6名)
- 学習支援員
- 教科支援担当は元教員、外国ルーツの学習支援員、スクールカウンセラーら5人、ほか得意支援を依頼できる人が4人。臨床心理士や公認心理師が子どもの接し方についてアドバイスを行う。