助成先訪問 No.013
どんな子も伸びる。学力の経済格差、地域格差を埋めたい!
NPO法人Seeds of Tomorrow
訪問日 2025年8月18日
会報取材/特別企画
〜奨学生による
助成活動団体 訪問〜
NPO法人Seeds of Tomorrowは、中学生を対象にした無料塾「みんラボ」3教室を神戸市内で運営。うち一つは市立高取台中学校(長田区)の隣にある市営住宅の集会室が活動場所です。まだ暑い夏休みの夕方、蝉の鳴く中を生徒らが30人ほど、集まってきました。月曜日は「英語」の日。教員OBと学生ボランティアがマンツーマンで中学生に付き、思い思いに課題ページの朗読を始めます。そこかしこから声が重なり、蝉の声がかき消されるほどです。

レポーター
奨学生 佐藤 日和さん
スタッフは全員教員OB
家庭の経済事情から塾に通えない子、発達特性があり小学校から授業についていけていない子を、主に教えています。共同代表の宮崎仁史さん(64)は元中学校、高校教諭。38年間の教員生活を通して「学校は一斉指導で、できる子に合わせる。成績が1や2の子を3にする仕組みではない」と気づいたのが、無料塾の始まりでした。「塾に行っていない子、自分で勉強できない子には特別なケアが必要なのです」。4人のスタッフは全員教員経験者。教員時代の研修で発達障害などについても学んでおり、教える技術は確かです。
大学生ボランティアによる実践的な学習指導
教室では20人の大学生ボランティアが、学習方法から丁寧に教えます。鉛筆の持ち方、ノートの使い方……。たとえば英語だと、3行置きに英文を書きその下に単語の逐語訳を付けていく、要点やイディオムは赤字で書くなど、パッと見て勘所がわかるノート作りを指導しています。数学も1ページに1問。後から繰り返しノートを見て、つまずいたところを自分で復習できるようにしています。
不登校児童のための学習スペース「みんラーナ」開設
不登校の子どもの学習スペース「みんラーナ」も開設しています。神戸市では2023年度、不登校の小学生が1812人、中学生が2902人にのぼっており、いずれもコロナ前の2〜3倍。不登校率は全国平均よりも高くなっています。学力をつけ、自己肯定感を高めるためにも学校、家庭以外の「第3の居場所」が必要とされています。
居心地の良い空間で広がる学習の輪
学校の敷地や校舎に入れなくても、みんラーナになら毎日来られる子が少なくないといいます。「個人指導なので自分のペースで学習できることがいいようです。とりあえず来てもらう。そのために居心地のよい空間を作るように努力しています」と宮崎さん。教育委員会にはみんラーナでの学習を学校の「出席」扱いにするよう、申請しています。
みんラボ高取台教室では、中2まで不登校ぎみだった男子生徒が、中3で通い始め、ぐんぐん学力を伸ばしました。自分のやり方にこだわっていた彼に、スタッフが数学の公式を教えたところ解けるようになり、勉強が好きだと言い始め、数学以外の教科も伸びていったそうです。彼が後輩に広めてくれたおかげで、高取台教室の生徒数が15人から35人に一気に増えました。先輩の背を追いかけるように、わかる、伸びるの輪が広がっています。
インタビュー
どんな子にも勉強をしたいという気持ちがある
共同代表 宮崎 仁史(みやざき・ひとし)さん(64)
公立中学、高校で38年間教師をしていました。教科は体育。学級担任をしていて、教室に入れない子がいた。そういう子に英語や数学を教え、わかるようになると、荒れていたのが落ち着くんですね。どんな子も勉強したいという気持ちがあるんや、とわかった。だいたい小2ぐらいでつまずく子が多いです。九九があやしい、通分ができない。そこまで戻って教えるとすぐにできるようになる。
学校は一斉指導が基本です。成績表が1、2の子はおいてけぼり。そこをカバーしたいと思いました。公立学校でも以前は先生が放課後に補習をしたりしていましたが、ここ10〜15年は先生が雑務で忙しくなって、そういう余裕がなくなりました。神戸市の中3の通塾率は80%以上です。塾に行って補わないと、学校の授業についてこられない。経済格差と勉強意欲が連動してしまっているんですね。
定期考査の結果をグラフにすると、いつも山が2つある。子どもたちは成績上位と下位にきっぱり分かれていた。それを正規分布に近づけたいと考え、2021年、退職仲間を誘って無料塾を立ち上げました。
三つある教室のうち一つは、隣接する高取台中学校と連携しています。授業が終わると、生徒たちはぞろぞろ連れだって無料塾に来る。校長は「学校でついていけないと思う子にはこういう塾がありますよ」とメールで一斉配信してくれました。家計の状況などの審査も何もない無料塾ということで、「ただやったら、ええんちゃう?」とあまり構えずに来てくれています。
20年ぐらい前から教員研修で「発達障害」「識字障害」などについて学んできました。どんな特性を持った子たちなのか、こちらに知識が付くと教え方も変わります。1対1で、その子どもに合った教え方を模索する。教員時代にはできなかったことです。
いま、教える側のボランティアスタッフとして高取台中を卒業した大学生3人、高校生2人が参加しています。同じ中学の先輩に学習の「里親」になってもらう形を、一つのモデルとして広げていけたらいいと思っています。
学びの原動力は「憧れ」。ここで学んだ人が大学生になって帰ってくる。その姿に憧れて中学生が学ぶ。長田区の下町で地域と学生のよい循環を構築していきたい。
子どもは一人ひとり違う、と実感
対応のレパートリー増やした
大学生ボランティア 清田 輝(きよた・あきら)さん(21)
宮崎先生は高校時代の水泳部の顧問でした。卒業して関西大に進学する際、ちょうど退職して塾を開こうとしていた先生に誘われて、ボランティアで教えるようになりました。
最初の拠点は東灘区。通塾率が高い地域で生徒が集まらず、小さい会議室に4〜6人の小中学生が座り、2〜3人で教えることから始めました。
2年目で長田区に拠点を移したら、生徒が一気に20人に増えました。神戸は地域格差も大きいと気づきました。
子どもは一人ひとり違う。1回で理解できる子もいれば、ゆっくり繰り返し教えなければ身につかない子もいます。理解力の差を埋めるには、言葉で言うより、紙に書いて視覚的に頭に入るようにしたり、自分の中学時代のエピソードを話して打ち解けるようにしたり、と工夫をしています。教員OBのスタッフの方たちからは「君たちが当たり前だと思うことは当たり前じゃない」「繰り返しが大事。1回の納得より、10回の練習」など、教え方のポイントを指導されています。
生徒はまた、家庭の環境や、ものの考え方も違う。伝え方一つで生徒に悪影響を与えることがある。間違ったやり方で地雷を踏んでしまうこともあります。トラブルを避けるには、私たちがまず、伝え方のレパートリーを増やさないといけない。毎回毎回、相手に合わせて自分の言葉や行動を変えることを意識するのは、飲食店のアルバイトとは違った緊張感があります。
就活の「ガクチカ」でも、ボランティアで学習支援に取り組んだ体験を話しました。採用担当者の人に興味を持ってもらえました。4月からは保険会社で働くことが内定しています。お客様に合わせて対応を変える必要が出てくるかもしれません。そのときにきっと、ここで学んだことが生きると考えています。
樫の芽会奨学生佐藤 日和さん
津田塾大学学芸学部
国際関係学科1年生
〜取材を終えて〜
今回の見学を通して、経済格差が子どもの学習機会に大きく影響している現実を知り、自分が受けてきた教育環境が決して当たり前ではなかったことに気づかされました。Seeds of tomorrow 様の取り組みから、学ぶ力や居場所の大切さを改めて学び、教育は知識の伝達にとどまらず、人を支える営みであると実感しました。学生である自分自身も、この気づきを今後の学びや社会との関わり方に活かしていきたいと強く思いました。
特定非営利活動法人Seeds of Tomorrow(旧・全国夜間中学ネット)
- 創 設
- 2021年6月
- 共同代表
- 宮崎仁史、吉永一郎
- 開催場所
・
日時 - (時間はすべて16:00〜20:00)
【無料塾「みんラボ」】
●甲南教室(神戸市東灘区甲南町3丁目) 月・水・金
●長田教室(神戸市長田区四番町4丁目) 水・金
●高取台教室(神戸市長田区高取山町1丁目) 月・木
【不登校や学校に行けない子の居場所「みんラーナ」】
●甲南教室(神戸市東灘区甲南町3丁目) 月・水・金
- 対 象
- 経済的な事情で塾に通えない、学校不適応、学校の勉強についていけない小中学生約50名
- 学習支援員
- 関西大、甲南大、関西学院大、兵庫医科大、神戸女子大、大阪教育大などの学生約20人