助成先訪問 No.009
人と関わりながら生きていく力をつけてあげたい NPO法人 regional childcare support こはく

訪問日 2024年11月22日

群馬県渋川市、伊香保温泉にほど近い料亭の地下倉庫だった場所に、「NPO法人 regional childcare support こはく」の学習室はあります。最初は倉庫用に設えたコンクリート打ちっ放しのだだっ広い空間だった場所を、白板のある教室型の部屋、大きなテーブルを囲んで学習できる部屋、リラックスできるソファーのある部屋などに区分けし、代表理事や保護者らが徐々に内装を施しました。あちこちに小さな手芸品やキャラクターの人形がちりばめられた、かわいらしい学習室です。

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心と学習の支援教室「わらしべ」を開講

代表理事の進藤由紀子さんは、算数・数学を主に教えています。元公立学校教諭。家庭の事情や発達の課題、障がいなど困難を抱える子どもたちが、将来社会で生きていくことができるようにしたい、と10年前に心と学習の支援教室「わらしべ」を始めました。県内3教室と訪問学習で小学生から大学生まで約50人を指導しています。進藤さんの元教え子の松村幸奈さん(37)が英語の支援を担当しています。

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学力だけでなく、生きていく力をつけてあげたい

進藤さんは子どもたちに学習指導以外のことをよく話します。あいさつができない子には「あいさつをして入ってきてください」、受験を控えた中学3年生には、受験前に準備するもの・受験前の生活の仕方などを学習の合間に語りかけています。自分と会話することで子どもたちのコミュニケーション能力の向上をさせてあげたい、学力だけでなく、人とかかわりながら生きていく力を総合的につけてあげたい、という親心のようなものが伝わってきます。だから、子どもたちとの繋がりは、とても強いものになっています。

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手書きの自主勉ノートは、大切な交換日記

希望する子どもたちに、その子が苦手な単元の問題を手書きした「自主勉ノート」を週末に徹夜で用意。今現在は、15名のノートを一週間分作成しています。一人一人の子どもたちの学習の習熟度に応じた課題を作成し、基礎的基本的な学習内容の習得を目指しています。保護者には、負担のかからないようにしています。絵を描くのが好きな子には絵日記を勧め、子どもたちの頑張りに協力しています。子どもたちが取り組んできたノート・準備してきたノートを一週間ごとに交換しています。

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助成金で無料学習チケットを配布、学習意欲を引き出す

今年度、樫の芽会の助成金で、学びたいという子どもたちに無料学習チケットを配りました。1枚で30分の無料補習が受けられるチケットを6枚綴りにして、希望者に毎月配布。時間外で勉強したい子は、このチケットを切って、提出します。勉強させられているという取り組みではなく、自ら学びたいという意識を持たせるため、そして、それを見える化することで子どもたちの意識が変わり、学習への取り組み方が変わるからだそうです。

特別支援学級に通っていた子には、高校入試に必要な学習内容を終えないまま進級しているケースが多くみられます。進藤さんはそうした子どもたちも受験に間に合うように、時には学校の担任と連絡を取り合ってフォローし、公立高校進学に導いてきました。その膨大な補習の時間にも、チケットが活用されているそうです。進藤さんは子どもたちの意識の変化と共に「無料チケット配布で、子どもたちなりに親の経済的負担を心配していたのもわかりました」。子どもたちから、「残ってやっていいですか?」と自発的な学習意欲が出てきたのが、うれしいといいます。

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インタビュー

進藤由紀子(しんどう・ゆきこ)さんインタビュー インタビュー写真

子どもの周りをみんなで囲んで、という教育を
代表理事 進藤由紀子(しんどう・ゆきこ)さんインタビュー

「こはく」はお母さんたちの口コミで広げてもらって11年目。常に50人くらいの子どもが来ています。「授業についていけない」「家で宿題ができない」「不登校」「発達障害」など学校で何らかの不便を感じている子が多いです。学習支援は一つの手立て。私は算数・数学を主に教えますが、学習支援という手段を通して、社会に出て必要になることを教えています。
「あいさつをする」
「約束は守る」(中学生に関しては、課題の提出・テスト前の学習の仕方の支援)
「分からないことは分からないときちんと言葉にして伝える」
こうした基本を守らない子にはすごく叱ります。子どもたちを叱ることはとても難しいことです。何について叱られているかということをしっかりと伝え、自分がこれからどう努力していくべきなのかも話します。子どもたちは「叱られている」という感覚ではなく、一緒に考えて、教えてもらったという感覚になっているのだと思います。だから長い間、通い続けて来てくれている子が多いです。人としてのつながりを子どもと持つことに、重点を置いているんですね。そこに地域の、困っている親が信頼を寄せてくださっている。保護者も理解しているからこそ、通わせ続けてくれている。
20年間、公立学校の教師として勤めました。最後の7年間は小学1年生を受け持ちました。小学1年生の一年間に、子どもたちに集団生活の大切さ・学習の基礎的基本的な内容の定着など学校生活の基盤を形成しておくことがこの先の6年間の学校生活を送るためにとても重要な学年と思ったからです。それでも、学力や家庭環境の差が出てきます。親の不適切な養育により児童相談所と関わっている子ども、DV家庭で育つ子どもがだんだん増えてきました。そうした子どもの支援には、保護者の協力は不可欠です。まずは、その保護者との関係を築こうと話を聞くことに注力すると、学校の管理職から「親はいい。子どもの教育をしろ」と言われる。学校教育と私の教育方針・学級経営方針などに乖離が生じて、私が子どもたちや保護者にしてあげたいことは学校ではできないと退職を決意したのです。
この10年間で、何人もの不登校の子どもたちを学校に通わせて来ました。子ども・保護者のためにどんな支援ができるのかを常に考え、子どもには適切な言葉がけを、保護者には何でも相談できる環境を作っています。このためには、支援者自身が、信頼される人物になる努力をしなくてはいけません。このことに制限を設けられるような学校教育にいまだ不信感を抱いています。そのような学校教育では子どもや保護者を救うことに限界があるということも理解していますが、苦しんでいる子のために何ができるのかを学校だけではなく、地域社会の民間教育との連携の必要性を日々感じています。
特別支援学級の子どももたくさん来ています。保護者は「うちの子、公立高校への進学は無理ですよね」と言うんです。本音は行かせたいと思っているんですね。「行けますよ」とお返事します。「それには、ものすごく努力が必要になります。努力ができればです。努力ができれば私も最大限の努力をします。まずは、努力できる・頑張れる子にしなくてはいけません。厳しいですよ。その厳しい道のりを親子で乗り越えて行くことが必要ですが、できますか?」と確認します。確認をしてから支援に入ります。入試に間に合うように、小学生の学習の振り返り、中学生の学習内容を積み上げ直すのは簡単な事ではありません。あきらめてと言われていた子も今まで何人も、公立高校に進学させてきました。こうして公立高校に進学した子たちは、高校生になっても通ってきてくれています。高校生になった子たちには、次はその子のキャリア教育に力を入れるようにしています。公立高校進学という選択をすることで、その子の未来の道の選択肢が増えていくと感じています。特性がある子どもたちも社会の中で生きていけるような支援を続けています。
子どもたちの教育や支援の在り方が時代と共に変わって来ていることを社会全体で受け止めないといけない。子どもは「未来をつくる人」。子どもの周りをみんなで囲むような「つながった教育」を実践していきたいです。

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左より、村野選考委員長 (樫の芽会)・進藤代表・山北事務局長(樫の芽会)

子どもたちには、先生ではない。
人として付き合っている。
英語担当 松村幸奈(まつむら・ゆきな)さん(37)インタビュー

英語担当 松村幸奈(まつむら・ゆきな)さん(37)インタビュー

進藤先生には、中学時代ソフトボール部の顧問としてお世話になりました。県立女子大の国際コミュニケーション学部を卒業後、民間企業で働き、体調をくずして退職することになった折に、「こはく」の立ち上げを知ったんです。
自分の得意な英語を活かせたら、と7年前に教え始めました。私自身が進藤先生に教わっていたので、「これをしたらアウト」というのは長い付き合いで把握しています。今も、進藤先生とコミュニケーションをとりながら子どもたちに接しています。
中学生は多感な時期ですので、「もうやりたくないな」と思われるのが怖い。本人たちの中にも自分の評価に関してシビアな部分が出てきています。その子の個性を受け止めながら、「この子にはここまで言ってもいい」「この子には冗談が言えないな」など、常に考えて発言するようにしています。引き際の線は、普段の会話やエピソードの蓄積からわかってくる感じですね。私は教育学部を出ているわけではないので、先生ではない。人として付き合っている感覚があります。わが子にも発達特性があり、重ねてみることも増えました。「先輩」から「保護者」の目線に変わりつつあります。
学習というのは、「腑に落ちた」瞬間にわかるんですね。積み重ねでちょっとずつ点数が上がっていくのはうれしい。特別支援学級の子が高校、大学に進学し、自分なりの歩みを進めている姿を見るとよかったな、と思います。勉強だけをみるというより、子どもが歩みたい道を歩めるように、ちょっとずつ成功体験を積ませて上げたいという思いで接しています。

NPO法人 regional childcare support こはく

創 設
2013年4月
代表理事
進藤由紀子
開催場所・
日時
①渋川教室/群馬県渋川市渋川上郷 「うたしあ」地下 月・金17時〜21時
②安中教室/群馬県安中市安中 木18時〜21時
③高崎教室/群馬県甘楽町福島 放課後デイ「カラフル」内 土18時〜22時
④家庭訪問支援/安中、松井田 火17時半〜22時
対 象
渋川市、安中市、甘楽郡、高崎市などの小学生〜大学生約50人
学習支援員
代表の他、1人(英語担当の松村様)、保護者が理事として側面支援

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