助成先訪問 No.008
外国ルーツの子どもの学びを支える
NPO法人シェイクハンズ
訪問日 2024年9月28日
会報取材/特別企画
〜奨学生による
助成活動団体 訪問〜
もしも言葉がわからない外国で、専門用語の多い歴史や生物学を教わることになったら……我が身に置き換えると絶望的に難しいことだとわかります。NPO法人シェイクハンズは、四半世紀にわたり、外国にルーツのある子どもたちの日本語による学びを支えて来ました。その蓄積をもとに、中学生・高校生の支援に取り組み始めています。
レポーター
奨学生 久原 萌花さん
地域の子ども中心の公営拠点にて
活動場所となる「にじいろ寺子屋」は、楽田児童館の2階にあります。広い空間を衝立で三つに仕切っています。一つは勉強部屋。書棚には国語辞典が10冊以上並び、ひらがな表や日本地図が貼り出されていました。ボランティアの学習支援員の助けを借りながら、生徒たちは集中して勉強に取り組んでいました。
真ん中の部屋には長机や座卓が置かれ、休憩したり、少し緊張を解いてゆるく勉強したりする場所。奧は子ども食堂で、みんなで作った軽食やおやつを食べる時に使います。大きなソファがあり、具合の悪い子や一人になりたい子が寝そべって過ごすこともあるそうです。
母語のネパール語から英語を迂回し、日本の教科を理解
ネパールから1年前に来日した中学2年生のプラディギャリジャルさんは、日常会話や読み書きに不自由しなくなるなど長足の進歩を遂げました。今、取り組んでいるのは日本史の学習です。英語の年表を横において併用しながら覚えていくのですが、「TANUMA OKITSUGU」が人の名前なのか、地名なのかがわからないといった、混乱が時々生じます。指導員の男性は「あーそうだよね、難しいよね」と励ましながら、「人の名前だから、何をした人なのかをセットで覚えてね」と促しました。
故事成語も、似た意味の英語のことわざに置き換えてから、日本語の文字や音とともに覚えるそうです。母語のネパール語、英語を迂回しながら、日本の教科の理解を進めていきます。
外国にルーツをもつ生徒のハンディ
キャップ
愛知県の公立高校入試は、小学校3年生以前に来日した子どもや日本生まれの子どもには、時間延長や辞書持ち込み可などの配慮がありません。指導員は「日本語を母語とする子ども達と同じ条件で入試に臨むのは大変。何らかの配慮がほしい」と話しました。
日本で暮らす将来を見据えて、親子
に寄り添う
木曜日はボランティアが下校に付き添い、土曜日は生徒の自宅まで迎えに行くなど、子どもが来なくなることがないように、工夫を重ねています。保護者には通訳を通して「お子さん、がんばってますよ」と伝え、日曜日に開催するフェスタで着物の着付けや華道を教えたり、リンゴの飾り切りを一緒にしたりと、親子で日本の文化に触れてもらう機会も設けています。代表の松本里美さんは「子どもたちが高校を卒業し、日本での将来の選択肢を増やしてほしい」と願っています。
インタビュー
日本語の問題が教科学習の伸びに影響
「継続するしかない」
代表理事 松本 里美さん(70)
愛知県は、全国で2番目に外国人が多い県。(一位は東京都)特に犬山市は、隣接する小牧市に自動車関連工場がたくさんあることから、入管法が改正された2000年以降、南米からの日系移民が県営住宅などに集住するようになりました。最近はベトナム、フィリピン、ネパールからの移住者が目立ちます。
25年前、フェアトレードのお店にコーヒーを飲みに来たペルー人から「子どもが日本語がわからない。勉強がわからない。けんかも多い」と相談を受けました。子どもの日本語教室を探したけれどなく、「自分たちでやってみよう」とフェアトレード仲間4〜5人で、手探りで始めました。
週1〜2回、小学生から始めましたが、なかなか成果があがりません。小学校で掛け違えると学力の差が広がるばかりになります。「就学前に毎日やろう」と方針を変え、日本語教師4人をスタッフに迎えました。
大人に日本語を教えるのとは全然違う。今も試行錯誤です。
外国にルーツがある子どもたちは自己主張が強いです。それはいいことでもあるのですが、最初は教室にきてもけんかばかり。「まず手を洗う、宿題をする、1枚ぐらいはプリントをする」ということを習慣づけました。
日本の子どもは小学校入学時には、自分の名前はひらがなで書ける。でも、外国ルーツの子はそうではありません。絵を使って物の名前と文字を教えても、同じ文字を使った別の言葉が浮かばず、語彙が増えていきにくい。カギとなるのは継続です。ずっと勉強をつづけると小5ぐらいでヒュンと追いつくことが多いです。
最近は中学生の不登校と形式卒業が増えました。定員割れの高校や外国人を受け入れてくれる私立高校もありますが、日本語のフォローアップがない。それで中退してしまう。そういうケースが目立ちます。ここをフォローしようと、中・高生対象の寺子屋を始めました。今25人ぐらいが在籍しています。
課題は日本語の問題が教科の問題に移行すること。日常会話はできても、教科を学ぶには足りないことが多い。日本人の子どもとやり方が違ってもいいから、教科の内容がしっかり身につくように教えています。話し言葉と書き言葉は違うのですが、話し言葉で書く子が多い。「よく書けているね」とまず褒め倒してから、間違いを正していきます。
ペルーには高校入試がないなど教育事情の違いもあります。日本の学制や入試についてのガイダンスも行い、受験をサポートしています。
反抗期もありますから、教室に来なくならないように、つながった糸が切れてしまわないように、保護者との連絡を密に子どもを支えています。
日本語教師を目指して勉強中です
学習支援員 藤本 雅己さん(23)
愛知淑徳大で教職課程を学ぶ学生だったとき、子どもにかかわる活動の一環で、シェイクハンズを知り、昨年の6月から学習支援のボランティアをしています。今は大手前大学の通信制で学んでいます。
一番苦労したのは、文化の違いですね。自分と子どもたちの「当たり前」に乖離があった。外国ルーツの子は順番を守るなどは得意ではなく、横入りも当たり前。悪意がないのはわかるので、どう指摘しようか悩みました。子どもや家族が大事にしている文化や習慣は否定せずに、「ここは日本だから、まわりに合わせて行こうね」と伝えるようにしています。子どもたちが成長して、日本での進学や就職のためには、どうしても必要になると思うので。
自分が成長したなと思うのは、純粋に異文化を知ることができたこと。100人弱の子ども達の多様な文化や考え方に触れたことが大きいです。自分は地元なのに、21年間、外国ルーツの子どもたちがこんなにたくさんいて、学習に困っているとは知らなかった。シェイクハンズに来なければ知らないままだったろうなと思います。
子どもに関わる仕事として教職に就きたいと思っていましたが、知見が広がって、日本語教師を目指すようになりました。今年から国家資格になり、簡単ではないと思いますが、実習を経て周囲から認められ、頼られる存在になりたいと思っています。
樫の芽会奨学生久原 萌花さん
放送大学教養部
心理と教育コース4年生
〜取材を終えて〜
私は現在、スクールソーシャルワーカーとして不登校や家庭問題の支援に携わっていますが、今回の取材を通して、「外国ルーツ」を背景とする学校や地域での課題があることを知りました。言葉の壁だけではなく、日本とはルールや文化の異なる国から来ることで、地域や学校での不和や喧嘩という問題もあること、それを支援員さんの根気強い指導により少しずつ改善していったというお話が印象的でした。この取材がなければ気付けなかった外国ルーツの子供達の苦労や葛藤、そして支援されている方々の想いを、今後の支援や学習に活かしていきたいです。
特定非営利活動法人シェイクハンズ
- 創 設
- 2005年(2009年4月 NPO法人化)
- 代表理事
- 松本里美
- 開催場所
- 愛知県犬山市字裏ノ門「にじいろ寺子屋」(楽田児童センター2階)
- 開催日
- 毎週水曜18時〜21時、土曜15時〜18時
- 対 象
- 犬山市と近郊在住の外国ルーツや困難を抱える中学生、高校生約25人
- ボランティアスタッフ
- 11人