助成先訪問 No.007
「こんな場所をつくりたいよね」から始まった無料塾
チアアップ彩たま
訪問日 2024年8月21日
会報取材/特別企画
〜奨学生による
助成活動団体 訪問〜
日本で最も暑い地点の一つ、埼玉県川越市。猛暑にも負けず、JRと東部東上線が交差する川越駅近くにある埼玉縣信用金庫川越支店の会議室に、夏休み中の子ども達が続々集ってきました。「チアアップ彩たま」の夏季講習です。2023年春、川越市の学習支援の委託先が変わったことを受け、ボランティアとしてかかわってきた大学生が主体となり、新たに学習支援団体を立ち上げました。
レポーター
奨学生 山本 康太さん
取り組む学習課題はさまざま
対象はひとり親や経済的困難など社会的背景を抱える子ども。長期休み以外はウェスタ川越で毎週土曜日の夜、開講しています。訪問した日に参加したのは小学生から高校生までの17人。子どもとスタッフが1対1、もしくは1対2になるように、席順を決めてホワイトボードに書き込んでいきます。
午後1時に学習開始。それぞれ持参した夏休みの宿題やドリルに黙々と取り組みます。「中学3年とは」という壮大なテーマの作文に四苦八苦していた子は、スタッフの助言を受けてキーワードを書き出し、構成を考えました。高校の関数では、文系から理系のスタッフにバトンタッチして解法にたどりつきました。スタッフの多様性と連携が活かされています。
ここに来たら話を聴いてくれる人がいる
「居場所支援」も大事な目的です。高校3年生の女子は、スタッフの女子大学生と額を寄せ合い、進路や親との関係について相談しながら、数学の問題を解いていました。マンツーマンに近い形を取っているのは、子どもたちに「ここに来たら話を聴いてくれる人がいる」と感じてもらうためです。
休憩時間にはお茶とお菓子を囲んで、名物の「プチ講義」があります。スタッフが大学の専攻について、クイズ形式で子どもたちに伝えます。この日は心理学を学んでいるスタッフの講義「それ、名前があります」。人間がよく陥りがちな状況を言い表す言葉を紹介していきました。
「テストの前に関係ないことがやりたくなるのは『セルフハンディキャッピング』と呼びます。失敗した時を考えて、あえてダメージを減らす効果があります」
子どもたちは「ある、ある」と頷きながら聞いていました。
地域を横断した支援に支えられて
地域との連携も重視しています。学習会には川越市社会福祉協議会のソーシャルワーカーも参加し、子どもや家庭の状況についての情報交換なども行っています。地域ネットワークの「小江戸こどもサポーターズ」にも参加、子ども食堂と連携し、昨年の冬季講習時には約90食のお弁当を配布しました。無償で会議室を貸してくれるなど企業との連携にも助けられています。こうした連携により、支援を必要としている子ども達にさらに広く届けたい、といいます。
インタビュー
大学生は子ども達にとって「ナナメの関係」、
家でも学校でもない関係が「居場所」になればいい
チアアップ代表 浦松 晶さん(27)
立教大学コミュニティ福祉学部の4年生の時に「チアアップ彩たま」を立ち上げました。別の団体で学習支援をしていたんですが、その団体が川越から撤退することになり、「この場を残したい」という思いが強くあったんですね。それまでかかわってきた子どもたち、ボランティアの学生たちと離れがたくて、今後も心配で。公民館に学生ボランティア14人が集まって学習支援の継続を決めましたが、お金ない、場所ない、支援ない、のないないづくし。ですが、当初から仲間や協力者に支えられて、この事業をやり遂げるという強い信念を持ち続けることができました。
私自身が子どものころに学習支援を受けていたので、関心は持っていました。大学1年生の時に必修の授業で学習支援教室を知り、引っ越して通える距離になったため、2年の時に参加しました。マンツーマンで子どもとかかわる支援にはまりました。子どもたちの話をただ聞くだけじゃなく、言葉の背景にあるものを理解する。宿題をやってこない子が発する「めんどくさい」の裏にあるものを聞き取る。1対1で接しながら、その子が本当は何を求めているのかを探っていくことが重要なんですね。
勉強以外の関わりが欲しい子もいれば、勉強だけしたい子、進路相談がしたい子もいる。大学生という子ども達にとって「ナナメの関係」、家でも学校でもない関係が、「居場所」になればいいと思っています。生徒や保護者のニーズを満たせるよう、学習支援ボランティアが気づいたことをミーティングでチームに共有し、気づきを教室に反映させるために運営者が準備をします。ミーティングには意見交換の場だけではなく、個人で抱えてしまいがちな思いをチームで共有し、バーンアウトを防ぐねらいもあります。新規のボランティアにはスタッフとの面談などの段階を踏んで参加していただいています。ただ、学生は代替わりもあるし、就職もする。無償で運営を継続することには難しさも感じています。
小4から高3まで支援対象は幅広いです。もともと市が委託する学習支援事業では、ひとり親世帯の子は中学生だけが対象でしたが、切れ目なく支援したいと考えました。進路相談がきっかけとなり、奨学金を受給して大学または大学院に進学した経験を持つ人を対象にアンケートを実施し、資料を作成しました。実際にどんな学生生活を送っているかを、ロールモデルとして子どもたちに見せるのがねらいです。紹介する奨学金は無利子、給付型のものに絞り、悲観的なものや厳しさを強調した体験談は伝えないという方針になりました。子どもたちが希望を持てるよう、資料を活用していきたいです。
子どもとの関わりで自分の成長も実感
チアアップ広報 小勝 周さん(25)
困難を抱える子どもたちに「チアアップ彩たま」の存在を知ってもらう、アウトリーチ活動が広報の仕事です。
本格的に活動を開始するにあたり、地元の川越新聞記者会にプレスリリースを出しました。夏季講習の場所を貸してくれた埼玉信金のプレスリリースを真似て作ったのですが、信金は金融紙、大学生の活動は一般紙やテレビと届く相手が違うのが面白いと思いました。学習支援は子どもが映り込んだ写真を使用できないため、SNS展開が難しい。制約の中でも文字やアングルを工夫してインスタグラムやnoteで発信を続けています。メディアの取材も積極的に受けています。
学習支援員としても活動をしています。関わった子が「わかった」と言ってくれると嬉しい。子どもとの関わりの中で得た気づきを、仲間が広げてくれて、自分も成長できたと思っています。
ひとり親家庭の高校生は対象外など、制度のはざまで支援が届かない子がいることも見えてきました。見過ごされる格差や名前のついていない社会問題に光をあてたいと思っています。
樫の芽会奨学生山本 康太さん
大阪府立大学
工学域物質化学系学類4年生
〜取材を終えて〜
私自身、大阪で学習支援活動に参加していますが、今回このような取材・見学の機会を頂き、チアアップ彩たまの活動の背景や設立経緯をお聞きして、活動のニーズや意義を再確認できました。共に活動している現場の大学生にも、学んできたことをぜひ伝えていきたいと思います。また、学生が主体となって設立・運営し、社会人を含めて周囲を巻き込むことで、運営上の課題を一つ一つクリアしてゆく姿を見て、大変勇気づけられました。積極的に社会と関わっていこうとする学生が全国にいることを知れて、見ている世界が一段と広がりました。
チアアップ彩たま
- 創 設
- 2023年4月
- 代 表
- 浦松 晶
- 開催場所
- ウェスタ川越(学期中)、埼玉縣信用金庫川越支店会議室(長期休み中)
- 開催日
- 毎週土曜日(18:00〜20:00)、夏・冬・春の長期休み中に各5〜6日開催
- 対 象
- 社会的・経済的な背景を抱えた小4〜高3の子ども約20人
(社会福祉協議会からの紹介を受け、保護者と子どもと面談をしたうえで受け入れ)
- ボランティアスタッフ
- 立教大、東京外国語大、東京国際大、大東文化大、埼玉大など約40人