助成先訪問 No.005
英語が明るく響く教室 意欲的な学びの場
NPO法人フェアネス・ラボ
訪問日 2024年9月16日
学習支援の開始時刻は午後7時。それなのに、6時過ぎには、生徒たちが教室にやってきます。
“Good evening! How are you, today?”
学習指導員の英語の挨拶が出迎えます。
“I‘m fine!” 子どもたちの元気な挨拶が次々に返ってきます。
力を入れているのは英語教育
「つたなくても英語でやりとりし、耳を鍛えるのです」と代表の丸山史子さん。
フェアネス・ラボは毎週木曜夜に石神井公園区民交流センターで、毎週水曜夜に練馬区立大泉中学校の敷地内にある大泉セミナーハウスで、学習支援教室を開いています。中学生が中心ですが、セミナーハウスは小学生から大学生までを受け入れ、どちらも15〜20人がコンスタントに参加しています。子ども達がおのおの持ってくる教科の教材を学びますが、力を入れているのは英語教育です。
「フェアネス・ラボ」流とは
この日は、体の部位を英語で何というかをイラストで紹介したプリントが配られました。頭、肩、膝、胸……子どもたちはプリントに書き込みながら、発音とスペルを確認していきました。
長文の英文読解に難儀していた高校生に、丸山さんが、「段落ごとに何が書いてあるかを読み解いて行こう。ざっくりつかめれば大丈夫」と励ましました。文法を簡単に済ませて、読解の練習問題をたくさん解くのが「フェアネス・ラボ」流。この順序で進めると英語への苦手意識が克服しやすくなるそうです。
中学生は英語の芸能ニュースをパソコンで読んでいました。わからない単語は指導員が助け船を出し、動画サイトで一緒に音声を聴きながら、ニュースの内容を確かめます。
学習に取り組める環境の整備
大学生はTOEIC受験対策、高校生・中学生は定期テストと受験対策。学習の目的は明確ですが、子どもたちが自由な雰囲気の中、好きな勉強を好きなだけできる環境を提供することに心を尽くしているといいます。そのせいか、この教室の子どもたちは、自発的に学習に取り組み、「そろそろ片付けてね」と言われない限りなかなか帰りたがりません。
生徒のために出来ることをひとつひとつ実現
同じような志をもつNPO法人「まちの駅大泉学園」から月1〜2回、子どもたちの夜食にと、おむすびやおいなりさんの差し入れがあり、地域との関係もできてきました。石神井公園の教室では、指導員が試行錯誤しながら、ディスレクシア(難読症)のお子さん3人に英語を教えています。不登校の子の進路指導にも取り組んでいます。
学習指導員は日本大や東京学芸大の学生と社会人。代表である丸山さんの知人の紹介で集まってきました。インターナショナルスクールで学ぶ高校生も指導員として参加を呼びかけています。後進の養成も課題ですが、関係者が力を合わせて、生徒のために出来ることをひとつひとつ実現させています。
インタビュー
このままじゃいけない
この時代を生きる子ども達に力を付けてあげたい
理事長 丸山 史子(まるやま・ふみこ)さん インタビュー
私の父が造船関係の仕事をしていて、海外赴任について行くことになり、小学2年〜中学1年までをロンドンで過ごしました。当時は日本人学校もなく、現地の学校でABCもわからないところから、自分流で英語をしゃべり、理解していきました。日本で大学を卒業後、貿易会社に就職。母の介護などがあり退職し、12年前、英語の塾講師に転じました。
そこで、お金を出して塾に来ても居眠りをしている子がいるのに、家庭の事情で来たくても来られない子がいることを知りました。養護施設から来ている子も数人いました。生活するだけでいっぱいいっぱいの状況なのに、一生懸命学習する子もいました。なんとかそういう子どもたちに無料で教えることができないか、と考えたのがきっかけで、フェアネス・ラボを立ち上げました。
日本の英語教育への危機感もありました。コロコロとカリキュラムが変わり、英語を喋らせたいのか、読ませたいのか、わからない。子どもたちは学習指導要領が変更されるたびに右往左往している。学校のテストの点数が取れずに、英語力全体のレベルが下がってしまう現状がありました。どうも最初につまずくとわからなくなってしまうようです。基礎を簡単に教えられる方法を考えました。
生徒はソーシャルワーカーや中学校からの紹介を受けてやってきます。子どもたちは教えるとスポンジのように吸収してくれる。学習が面白くなりテストの点数が上がると、やる気が出るという好循環が生まれます。
いま、高校は定員割れをしているところが多く、中学を卒業しさえすればどこかには入れる。子ども達はなんとなくこのまま生きていけるんじゃないか、と錯覚しています。でも、サンデル教授の白熱教室で、日本の学生だけが英語で議論に参加できていなかったのを見て、「このままじゃいけない。混沌とした時代を生きる子ども達に力を付けてあげたい」と思いました。
勉強ができても、不登校で出席日数が足りないので全日制を受験できない子もいます。子どもの人生の選択肢が狭まってしまうのは、よくないな、と思います。不登校の子どもが増える中で、仕組みを変えないと日本のレベルがどんどん下がっていってしまうと心配しています。
リーディングでは楽しい話、多様なジャンルの話をたくさん読み込みます。子ども達と一緒に学ぶ姿勢を持つとうまくいくようです。人に迷惑をかけない限り、子どもを自由にさせる。スタジオという形で、子どもたちが気持ちを楽に、自由に勉強をする場所を守っていきたいです。
子どもには、“開いた体”で接するようにしています
学習指導員 野田紅葉(のだ・くれは)さん インタビュー
日本大学芸術学部演劇コースを卒業し、今年4月から文学座附属演劇研究所で演技を勉強しています。
もともと丸山先生の学習塾に小学3年から通っていて、その延長線上でフェアネス・ラボの学習指導員になりました。途中から、先生の自宅で英語の個人レッスンを受けるようになりました。一緒に数人と学んでいたんですが、ここまで続いたのは私だけ。きっと教え方が合っていたんでしょうね。
2人で始めた時は生徒が少なくて心配したんですが、どんどん集まってきました。意欲的に「教えて」って言われたり、子どもたちから積極的に話しかけてもらえたりすると、よかったと思います。
自分もTOEICの勉強をしながら、子どもたちに教えていますが、子どもから学ぶことは多いです。日本語がそのまま英単語になっているのは発見でした。例えばお餅。私が子どものころにはrice cakeと言っていましたが、今はmochiで通じるんですよ。
演劇では「内に入ると失敗する」といわれています。子どもと接するときもそのメソッドで、開いた体で接するようにしています。そうすると子どもたちも悩みを打ち明けやすいみたい。これは演劇を体験した私にしかできないこと。
公演の時にはお休みをいただくこともありますが、演劇と両立しながら、フェアネス・ラボの活動を見守っていきたい。子どもたちとのつながりを途絶えさせたくないな、と思っています。
NPO法人フェアネス・ラボ
- 創 設
- 2021年8月 理事長:丸山史子
- 開催場所・
開催日時 - ❶石神井公園区民交流センター 1年を通して毎週木曜日18:00〜21:30
❷大泉セミナーハウス 1年を通して毎週水曜日19:00〜20:30
- 対 象
- ❶練馬区内の中学生 スクールソーシャルワーカーの紹介など
❷練馬区内の小学生〜大学生 中学校の紹介など
- 学習支援員
- 7人