助成先訪問 No.004
東京の下町・大田区に点在する「子どもがくつろげる空間」
NPO法人ユースコミュニティー
訪問日 2024年9月10日
町工場や商店が軒を並べる東京都大田区。東急池上線池上駅からすぐの商店街の一角にある「池上テラッコ」に午後7時、中学生約10人が三々五々集まってきました。細長い教室の壁に沿って長机が並んでいます。生徒たちは思い思いの場所に座り、それぞれが持ち寄った課題を広げました。英語、数学、国語……科目はさまざまです。マンツーマン、もしくは2人に1人、ボランティアスタッフが付き、学習をサポートします。
絶妙な距離感が居心地のいい雰囲気を
1時間経過したころ、15分の休憩を挟みました。この日は教室の真ん中に机を集め、その周囲に女子生徒3人とボランティア2人が集まって、トランプで七並べに興じました。ボランティアが持参したトランプは、ディズニーのキャラクターがステンドグラス風の絵で描かれていました。
「何これ、かわいい」「どこで売ってたの?」
生徒とボランティアの会話が弾みます。
サッカーと野球はどちらがかっこいいかという“古典的”な話題で盛り上がっていた男子のグループもありました。過度に干渉せず、でも押さえるところは押さえたボランティアとの絶妙な距離感が、居心地のいい雰囲気を醸し出しています。
子どもが自宅で宿題をできる
場所がない
大田区は世帯収入が低く、生活困難な状況に置かれた子どもが全体の12.8%を占めます(2020年、区調査)。小学5年生を対象にしたアンケートでは、「授業がわからないことがある」は全体の7.6%でしたが、生活困難層では2倍の14.4%にのぼりました。「学校に行きたくない」と「よく思った」「ときどき思った」の合計は生活困難層で52.4%と、過半数に達します。「子どもが自宅で宿題をできる場所がない」は全体の平均が4.5%でしたが、生活困難層では23.0%もいました。
学習支援教室「自由塾」を開講
こうした学習場所や学習習慣のニーズに応えるため、ユースコミュニティーは13年から自主事業として小・中学生を対象とした学習支援教室「自由塾」を開講。現在7拠点10クラスを展開しています。16年からは大田区の「子どもの学習支援事業」も受託し、中・高校生を対象に5拠点で取り組んでいます。2つの事業で計300人弱の子どもが在籍しています。
区内の子ども食堂と連携して、「子ども弁当」を提供してもらったり、社会福祉協議会や地元企業、スポーツ団体と連携して、食農体験、スポーツ鑑賞などを行ったりと、学習以外の格差解消にも取り組んでいます。
2020年からのコロナ禍でボランティアが80人から10人にまで激減し、対面の教室が開けずにオンラインでつないだ時期もありました。現在、コロナ以前の学習環境の再構築に取り組んでいます。
インタビュー
地元の相対的貧困率を聞いて衝撃を受け、
学習支援ボランティアを始めました
代表理事 濱住 邦彦(はまずみ・くにひこ)さん(54)インタビュー
前職は建設労組の専従でした。2011年の東日本大震災の時に岩手県大船渡市に被災地ボランティアに行ったのがきっかけで、NPO活動を知り、同じ年に東京都の教職員組合の分科会で「子どもの貧困」について学ぶ機会がありました。
当時、新宿区で小学校教諭をしていた岸田久惠さんのお話を聞いたのです。「今の貧困は見えづらい。ユニクロを着てスマホを持っていても、貧困状態にある子が結構いる」と。家庭の経済状況が厳しく就学援助を受けている家庭が、当時の大田区では約30%にのぼっていました。私が子どもだった時代は1クラスに1〜2人だったものが、いま十数人と知り、衝撃を受けました。何か手助けになればと、大田区内の団体を紹介していただいて学習支援のボランティアを始めました。区の福祉事務所のケースワーカーが主体でやっていたところで、生活保護世帯の子どもの暮らしぶりなど大変勉強になりました。
その後、区から学習支援団体に助成金が出ることがわかったのですが、福祉事務所の職員が主体だと受け取れない。そこで、私が区の助成金を受けてユースコミュニティーを始めました。
最初に苦労したのは生徒集めです。無料夏季講習を開いても誰も来ないこともありました。思いあまって都営住宅に無断でポスティングをして叱られました。事情を知った町会長さんが「いいことだから」と団地の掲示板に貼ってくれて、生徒が来るようになりました。地域からの信頼が大切だと痛感しました。区も福祉の部署を通じて、生活保護世帯に生徒募集のチラシをまいてくれました。
今はボランティアの定着率に課題を感じています。辞める時は挨拶していってね、と言ってはいるのですが、急に来なくなるボランティアもいます。子どもは見捨てられたと傷ついてしまうので、そういう事態は避けたい。区内に教育学部や福祉学部がある大学がないのも悩みです。明治学院大や東邦大などの大学でボランティア説明会を開いて、募集を行っています。
また、約130人のボランティアに年数回ボランティアアンケートを行い、居心地ややりがいについて丁寧に聴き取りを進めています。また、ボランティア通信を発行し、他の教室の様子やイベント情報を定期的に発信しています。さらに中間支援組織の協力を得て、「コミュニティーキャピタル会議(支援者会議)」を開き、アンケート分析をもとに定着率改善のためのポイントを指摘してもらっています。
複数財源で安定した運営を心がけ、5〜10年は続けていきたいと思っています。
子どもとコミュニケーションを取るコツは
目線を合わせること
学習支援ボランティア 中間陽太(なかま・ようた)さん
(22:帝京大学文学部4年)インタビュー
2019年12月、高校2年の冬にユースコミュニティーで学習支援ボランティアを始めました。推薦入試で大学に入るために、ポイントを稼ぎたかったという動機です。
最初はいやいや始めたのですが、大人同士、学生同士のコミュニケーションが心地よく、「自分の居場所」感があって、はまりました。
今、週2回、1回3時間弱、ボランティアに入っています。力をつぎ込んでいるというよりも、生活の一部になっています。
子どもとコミュニケーションを取るコツは目線を合わせること。来てくれるのではなく、一緒に居るイメージで、子ども達を「お客さん」にせずに楽しませること。
苦労している点は、子どもたちが宿題をやってこないとか、持ってきてもやらないとか。最初の1時間は集中させて、あとは遊びながらと心がけていますが、子どもは遊びメインになりがち。一方で親のニーズは勉強にある。このアンバランスさにどう折り合いを付けるかが課題ですね。
就活の際の「ガクチカ=学生時代に力を入れたこと」になりましたし、自分の軸になった。学外に友達が増え、世界が広がったと思います。
NPO法人ユースコミュニティー
- 創 設
- 2012年5月(2014年NPO法人化) 代表理事:濱住邦彦
- 開催場所
- 東京都大田区内に自主事業5拠点7教室、区の委託事業4拠点とオンラインを運営
- 開催日
- 自主事業は教室ごとに月、火、水、土、日のいずれか週1日。
土曜日は午前、午後、その他の曜日は夕方開催 - 対 象
- 経済的な理由で学ぶ機会が制限されている小学生〜高校生、
区の委託事業では高校中退者への支援も行う - ボランティアスタッフ
- 明治学院大、立正大などの学生と社会人、計127人(2024年7月現在)