助成先訪問 No.001
すべての子どもたちが学べる『居場所』を目指して KADOMA中学生勉強会

訪問日 2023年9月27日

大阪の中心部から京阪電車で約20分の大阪府門真市。ここで、家庭の経済的な事情などから塾に通えない中学生30人に、大学生が無償で勉強を教える「KADOMA中学生勉強会」が開かれています。2018年に始まった活動は、6年目に入りました。
水曜日の午後6時半、門真市民文化会館ルミエールホールの研修室に、中学生と大学生が三々五々集まってきます。最初は英語や数学の市販のドリルをコピーしたプリントを解いていきます。科目や習熟度によって生徒のプリントはそれぞれ異なります。シーンと集中した時間が流れていきます。

一人一人の学習レベルに合わせて

15分後、時計の横に立っていた学生が「そろそろ丸付けをお願いします」と声をかけると、長机の中央に座っていた大学生が、両脇の中学生の解答を交互に見ながら、小声でアドバイスを始めました。
「haveの次に来る動詞だから?」「過去分詞」「おー、できてるやん。それがわかっていれば大丈夫」
前向きな声かけをし、動詞の不規則活用を一緒に唱え、正答を赤ペンで書き込みました。

一人一人の学習レベルに合わせて

大学空白地域「門真」

門真市は*就学援助認定率が29%と全国平均の約2倍で、子どもを塾に通わせる経済的な余裕がない家庭が多く、さらに、府内では北摂地区に大学が偏在し、門真市にはゼロ。大学等への進学を希望している小・中学生も36%で、府の平均より8ポイントも低い状態です。
「身近にロールモデルとなる大学生がいないため、進学のイメージが持てていないのでは」代表の八上真也さん(27)はそう考え、大学生による伴走型学習支援を立ち上げました。

一大学空白地域「門真」

*就学援助認定率とは、各市町村で定められている所得基準以下の世帯に対して、子どもの給食費や修学旅行費を援助する制度

「第3の居場所」の必要性

もう一つ、大事にしているコンセプトは、家庭でも学校でもない「第3の居場所」の提供です。門真市子どもの生活実態調査(2017年度)によると、中学2年で、学校の勉強が「わからない」「ほとんどわからない」「あまりわからない」と答えた生徒は約4割。勉強を無理強いすると勉強会に来なくなってしまう可能性が高いと考え、子どもたちの育ってきた環境に配慮し、学力をつけるよりも、まずは対人関係や思考力を育てられるような「安心できる居場所づくり」を目指してきました。毎回、地元の人たちから寄贈されたおやつやジュースを提供。月1回のペースで夏祭り、遠足、クリスマス会、映画鑑賞会、プログラミング体験などのイベントを開き、ここに大学の見学会も組み込んでいます。

大学生による自主的な運営

ボランティアの大学生は現在18大学33人。試験や授業の都合を融通し合い、毎回15人ほどが参加しています。手弁当の事業ですが、奨学金を借りている学生が多いことに鑑み、1回1000円の謝礼と交通費を支払っています。学生たちは月1回のボランティア定例ミーティングや、コミュニケーションアプリSlackを通じて生徒の様子を共有し、担当が変わってもスムーズに支援できるように工夫しています。また、3ヶ月に一度、ボランティア学生座談会を開き、公務員、教員、NPO代表などの話を聞く機会を設けて、大学生が将来の仕事を考えるきっかけにしています。

大学生による自主的な運営

インタビュー

八上 真也 代表

「こんなお兄ちゃん、お姉ちゃんになりたい」
という気持ちを引き出す
八上 真也 代表インタビュー

私自身が門真市の出身なんです。市外の私立高校に進学し、「門真出身」というと、「アホばっかり」「ヤンキー多い」という反応が返ってきてショックでした。でも思い返せば、クラスで5人は高校に行かずに働いていました。鳶職に就いた子は傷害事件を起こして少年鑑別所へ。土木作業員だった友達は、作業中に事故に巻き込まれ亡くなりました。
学ぶ環境のない友達がすぐ身近にいた。自分は学級代表をやっていたのに、何も声をかけられなかったという悔いが残りました。高校時代から地域格差や教育格差に関心を持ち、大阪府立大(現・大阪公立大)の教育福祉学類に入り、大学1回生の頃から大阪市東淀川区で困難な状況にある子どもたちの学習支援に関わるようになりました。それまでは学習が最も大事と思っていたのですが、区役所のケースワーカーに「学習より、まずは大学生というロールモデルを見せてあげてほしい」と教わった。それをヒントに、大学4年時に、大学後援会の助成を受け、地元でKADOMA中学生勉強会を立ち上げました。
中3の子からしたら大学1年生は4歳しか違わない。でも、市内に大学がない中では、大学生と話ができるというのは得がたい体験です。「こんなお兄ちゃん、お姉ちゃんになりたい」という気持ちを引き出すことで、中学生は広く将来を描けるようになります。
現在、大阪府の職員として障がい者福祉の分野で働いており、水曜日は終業後に駆けつけています。社会人として働きながら、ライフワークとしてこの活動に取り組んでいます。手弁当の活動なので、助成金の確保やボランティアの育成など正直大変です。今の体制をできるだけ維持し、学生たちと共に頑張っていきたいと思っています。

「学習支援の前に居場所支援というのに共感した」
教室リーダーの大阪公立大工学部3年、
山本 康太さん

大阪公立大工学部3年、山本 康太さん

教室リーダーとして教材の準備やスタッフの連携など中心的に裏方の作業をしています。
1回生の秋から参加しました。学習支援は子どもたちに経済的、心理的安心感がないとうまくいかない。その点、KADOMAは居場所支援を第1にやっているというのに、共感しました。学生主導でやっているというのも楽しそうだなと思いました。
実際、中学生の居場所でもあるし、卒所した高校生も集まって自習している。大学に入ってスタッフとして戻ってきたOB、OGもいます。
大学生が立ち上げたという経緯も大きい。僕らが中学生のロールモデルであるように、八上代表が大学生にとってのロールモデルでもあります。
中学生から「大学ってどんなところ?」と聞かれたり、大学見学に来てくれたりと、興味を持ってくれているのはうれしいですね。

KADOMA中学生勉強会

創 設
2018年4月  代表:八上真也
開催場所
門真市民文化会館
ルミエールホール研修室・会議室
開催日
毎週水曜日(18:30〜20:00)、隔週土曜日(10:30〜17:00) ほかに月1回程度、体験イベントを開催
対 象
市内の公立中学校の1〜3年計30人 (経済的な事情で塾に通えていない生徒、学校の学習についていけない生徒、様々な体験機会の少ない生徒)
ボランティアスタッフ
18大学33人

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